TNFD · Forest · Practical Guide
水を使う製造業・飲料・食品・半導体・住宅・金融すべての企業に関わる 「森林依存・森林インパクト」をどう測り、どう開示するか。 LEAPアプローチに沿って実装手順を整理します。
TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)は、 2023年9月に提言 v1.0 が公表され、TCFD の自然版として急速に主流化しました。 2024年以降、東証プライム上場企業を中心に開示が本格化しています。
TNFDは「自然」を5つの領域に分解して扱いますが、日本企業にとって最も実務的に重い領域が「森林」です。 理由は3つあります。
この実務的な空白を埋めるために、林野庁は令和7年(2025年)4月に 「森林の有する多面的機能に関する企業の自然関連財務情報開示に向けた手引き」を公表しました。 本記事は、この手引きに沿って企業が実際に何をすべきかを整理します。
手引きは、TNFD の提言が定める14の開示項目に対して、 「森林依存・森林インパクト」をどう測定・開示すべきかを示しています。 特に注力されているのが、以下の機能の定量化です。
| 機能カテゴリ | 具体的な指標 | 主なデータソース |
|---|---|---|
| 水源涵養 | 年間涵養量(mm/年・トン/年) | 林野庁 簡易評価法 Ver.1.0、衛星画像 |
| 気候緩和(CO₂吸収) | 年間吸収量(t-CO₂/年) | IPCC AFOLU Tier 2、森林簿、Sentinel-2 |
| 土砂災害防止 | 侵食抑制量、崩壊リスク | 地形データ、降雨データ |
| 生物多様性 | 植生タイプ、希少種生息状況 | 環境省 自然環境保全基礎調査、モニタリングサイト1000 |
| 木材供給 | 蓄積量・成長量 | 森林簿、航空レーザ(LiDAR) |
TNFDは LEAPアプローチという4ステップの実装手順を推奨しています。 森林開示でも、この枠組みに沿って進めます。
LEAPの最初のステップ Locate では、自社の事業活動と自然との「接点」を地理的に特定します。 森林の場合、特定すべきは主に以下の3種類です。
このうち1番が最もボリュームが大きく、かつ自社では把握困難です。 工場の所在地住所から「どの河川流域に属するか」「その上流のどの森林に依存しているか」を 地理的に追跡するには、流域マッチングと呼ばれる手法が必要です。
もりみえるは HydroBASINS Lvl 10 をベースに、 住所 → 取水域 → 上流林班の自動マッチングを無料で提供しています。 これ単独で Locate ステップが完了します。
Locate で特定した森林について、依存・影響を数値化します。 森林の機能ごとに、推奨される測定指標は以下のとおりです。
取水点の上流森林について、年間の水源涵養量を 林野庁簡易評価法 Ver.1.0 で算定します。 詳細は 水源涵養量ガイド を参照。 TNFD 開示では「自社が年間に使う水量のうち、X% が当該森林に由来」のような表現が有効です。
IPCC AFOLU ガイドラインの Tier 2 手法で算定します。 Sentinel-2 から森林面積・植生指数を取得し、林齢・樹種ごとの係数を当てて推定します。 詳細は 衛星×CO2吸収量 解説記事 を参照。
環境省の自然環境保全基礎調査(植生図 1/50,000)とモニタリングサイト1000から、 対象森林の植生タイプ・希少種生息情報をオーバーレイします。 TNFD では「自然へのインパクト」として、土地利用変化や種の絶滅リスクへの貢献度が問われます。
Evaluate で出した量を、自社の財務インパクト・戦略インパクトに翻訳します。
| カテゴリ | 森林に関連するリスク・機会の例 |
|---|---|
| 物理的リスク | 上流森林の劣化による取水困難・水質悪化・洪水被害 |
| 移行リスク | 森林保全規制の強化、TNFD非対応による投資家評価の低下 |
| 機会 | 自社の森林投資をブランドとして発信、ESG債発行の根拠 |
| システミック | 気候変動による広域水循環変化、生態系崩壊が産業全体に与える影響 |
TNFD は最終的に有価証券報告書・統合報告書・サステナビリティレポートで開示します。 森林の場合、以下の3点を必ず盛り込むことが手引きで推奨されています。
特に「変化のトラッキング」は、TNFD が将来的に MRV(Monitoring/Reporting/Verification)の 質を厳しく問う方向にあるため、いまから時系列データの蓄積基盤を作っておくことが推奨されます。
| 年 | マイルストーン | もりみえるで支援できる範囲 |
|---|---|---|
| 1年目 | Locate 完了:自社の依存森林リスト作成 | 流域マッチングで自動生成可 |
| 2年目 | Evaluate:水・CO₂の定量指標の初版開示 | 簡易評価法・Tier 2 で算定可 |
| 3年目 | Assess + Prepare:リスク機会分析、財務翻訳、有報開示 | 時系列差分データで変化トラッキング |
最終更新:2026年5月17日。本記事は林野庁・TNFD 公開資料に基づき、もりみえるが独自に整理したものです。